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卵巣腫瘍のおはなし

2021年11月12日

 卵巣は女性に特有の臓器で、大きさは親指の先くらいで左右に2個あります。卵巣には主に2種類の機能があり、一つは卵子を提供することであり、もう一つは女性ホルモンを産生することです。人体の諸臓器はいろいろな種類の細胞から構成されています。卵巣を顕微鏡で観察すると、他の臓器にはない珍しい細胞があります。まず、特別な細胞である卵細胞です。卵細胞は排卵されて、精子と合体したら、新たな遺伝子をもつ1個の細胞(受精卵)になり、それが細胞分裂して大きくなり、新たな人間になります。他には、卵細胞を取り囲んで女性ホルモンを産生する細胞があります。
 卵巣には、他の臓器と同様に、特有の腫瘍ができてしまうことがあります。卵巣にできる腫瘍には様々な種類があり、良性腫瘍もあれば、悪性の卵巣がんもあります。手術をして顕微鏡検査をしないと確定診断がつかない、液体を含んだ巨大な腫瘤となることがある、などの特徴があります。
 いくつか例をあげますと、20~30歳台に多い卵巣腫瘍に「成熟奇形腫」というものがあります。これは卵細胞が腫瘍化したものと考えられており、毛髪を生やした皮膚や、骨、軟骨、脳組織などを含んでいることがあります。良性ですが、ある程度大きくなるとねじれて急におなかが痛くなることがあります。
 「粘液性腫瘍」は粘液を含んだ腫瘍で、巨大化することがあり、その場合は腹部が膨らんできます。様々な世代の方にみられます。かなり巨大化してお腹が膨らんでから病院を受診し診断されることがありますが、「太ったと思っていたので病院に行かなかった」と言われる方が多いです。太り方が速い場合は腫瘍ではなかったとしても介入した方がいいと思いますので、内科や婦人科を受診してださい。
 「チョコレート嚢胞」は30~40歳台に多く、生理痛の原因となっていることがあり、飲み薬で治療することもあります。
 「卵巣がん」にも様々な種類がありますが、みつかったときには転移していることも多い病気です。そのような場合、手術と抗がん薬を併用して治療を行い、「寛解(明らかな腫瘍が体内にない状態)」を目指します。近年、寛解を維持するための治療が進歩してきており、腫瘍の遺伝子異常を調べて、治療方針を決定することも多くなりました。
 また、卵巣がんの患者さんの中には生まれつき乳がんや卵巣がんに罹りやすい方がおられます(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)。卵巣がんと診断された方には医療保険制度で遺伝子を調べることができるようになる等、国内でも遺伝性腫瘍に対する診療が整備されつつあります。
 婦人科疾患に関しては日本産科婦人科学会のホームページ、がんに関しては国立がん研究センターのホームページ(がん情報サービス)などが参考になります。