病気について知る病気の解説

健康寿命と片頭痛

2021年12月10日

 医学の進歩により平均寿命は伸びていますが、単に長生きするだけではなく、健やかな毎日を送ることも大切です。
疾病で早世することと疾病で障害を受けることをまとめて「疾病負荷」といいます。その指標として障害調整生存年数(Disability adjusted life year : DALY)を用います。早世により失われた年数と障害で損なわれた年数の総和です。
 1990年以降、WHO(現在はビル ゲイツ財団)は、多くの国々の疫学調査をして障害調整生存年数を報告しています。その結果、早世には大きく影響しませんが、うつ病のように日常生活に大きな支障を来す疾病が注目されています。
 片頭痛は健康寿命を2年縮め、さらに2019年の報告では障害調整生存年数へ影響する脳神経疾患のうち片頭痛は13.1%と、脳卒中の47.3%に次いで多く、認知症の9.5%を上回ります。
 また出勤はしていても、健康上の問題で労働に支障を来し、最善の業務ができなくなる状態を疾病就業(presenteeism)といいますが、最近行われた日本と韓国の調査では、我が国の場合、疾病就業で片頭痛患者一人あたり年間24万円もの経済的損失を生じています。
 このように日常生活を大きく損ねる片頭痛ですが、周囲に理解されにくく自身で抱え込み、我慢している方が多いのが現状です。
  片頭痛とはどんな頭痛を示すのでしょうか? 一般に若年女性に多く、半日から3日間続く強い頭痛が時々出ます。その間は歩行や階段昇降で頭痛がひどくなり、気持ち悪くなったり、光や音に敏感になったりします。人によっては寝込んでしまうなど症状は強いのですが、脳腫瘍や脳卒中など直接の脳の病気から生じているのではなく、頭痛が出やすい体質といえます。
 ではどうして片頭痛が起こるのでしょうか? 現在、最も支持されているのは三叉神経血管説といい、脳を包む硬い膜(硬膜)の動脈に無菌性炎症を生じ、頭痛を起こすというものです。
 少し詳しくお話ししますと、生理や気圧の変化などをきっかけに、硬膜の動脈を取り巻く痛みを感じる三叉神経から、神経伝達物質が放出され血管が広がり、血漿タンパクなどが中から漏れて炎症を起こし頭痛を生じます。続いて痛みの情報は脳の中心(脳幹)から脳の表面(大脳皮質)へと伝わり頭痛がひどくなります。その途中に脳幹で吐き気なども引き起こします。
 片頭痛の治療法についてですが、頭痛が出たときに使用する頓挫薬があります。頓挫薬の代表は血管の炎症を直接鎮める特効薬のトリプタン製剤です。片頭痛を起こしにくくするには、まず暴飲暴食を避け、睡眠のリズムを整える、ストレスを避ける、適度な運動など生活習慣に気をつけてください。その上で月に片頭痛を2回以上あるいは6日以上生じている方、1度の片頭痛の程度が強い方などは回数や程度を下げるために予防薬が必要です。
 日本では色々な内服薬が認可されていますが、今年4月下旬から重度の片頭痛の方を対象に、新しい片頭痛発症抑制薬として神経伝達物質を抑える、「抗CGRP関連薬」が認可されました。頭痛で困る方は、ぜひ医療機関でご相談ください。