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コロナ禍と肥満と子宮体がん

2022年5月20日

 ここ数年のコロナ禍によるステイホームで運動不足となり体重が増加したという方は多いと思います。
 コロナ感染では、肥満は高齢や糖尿病、高血圧症などの基礎疾患と同じくらいの重症化の危険因子となることが知られていますが、肥満に最も関連のある“がん”は子宮体がんであることをご存知でしょうか? 先進国では肥満者の増加とともに子宮体がんの罹患率、死亡率が激増しており、日本でも最近10年間で倍増しました。BMI(※)が正常の場合、子宮体がんの生涯発症リスクは3%ですが、BMIが5増加するごとにリスクは50%も増加するといわれています。
 米国の研究では、「標準体重」の人に比べ、「やや肥満」は発症リスクが3.85倍、「肥満」は5.25倍、そして「重度肥満」はなんと19.79倍に達しており、「閉経前の女性にとって、肥満の問題は子宮体がんの最も危険な因子である」と結論づけています。
 子宮体がんの発症には卵巣から分泌されるホルモンの一つ、エストロゲン(卵胞ホルモン)が関わっています。しかし、子宮体がんの8割は卵巣からのホルモン分泌が終了した閉経後の50歳以上で発症します。
 原因は、脂肪、特に肥大した内臓脂肪から分泌されるエストロゲンです。閉経後でも女性の副腎からは男性ホルモンであるアンドロゲンが分泌されています。脂肪中にはアロマターゼというアンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素が豊富に存在しており、肥満状態では肥大した内臓脂肪からエストロゲンが過剰に産生、分泌されます。加えて、閉経後の子宮内膜は微量のエストロゲンにも敏感に反応するため、長時間のエストロゲン刺激を受けて“がん化”していきます。
 逆に卵巣が機能しているうちはプロゲステロン(黄体ホルモン)が子宮内膜を保護しているので、閉経前には子宮体がんの発症が少ないのです。
 子宮体がんでは肥満に加え、生活環境や遺伝因子、日々の運動や食生活などのライフスタイルも発症に関わってきます。座っている時間が1日の6割を超えると肥満、糖尿病、心臓病、がんが増えると言われており、ジムなどで1~2時間毎日運動しているからあとは寝ていても大丈夫、という考えは大変危険です。特にコロナ禍ではジム通いも難しく、掃除、洗濯などの家事や徒歩での移動、階段利用など、日常生活でしっかり体を動かすことが有効かもしれません。子宮体がんの予防には、生活習慣病と同様に食生活に気をつけ、適度な運動で適正な体重を保つことがとても大事です。
 子宮体がん検診は、残念ながら法律で定められておらず検診事業には入っていません。幸い、多くの子宮体がんは症状を自覚して受診しても初期の段階で診断され、命にかかわることの少ない疾患です。コロナ禍で受診控えもあるようですが、閉経後、もし不正性器出血を自覚したら、早めに医療機関を受診することをお勧めします。

※BMI(Body Mass Index)は、
体重(kg)÷身長(m)の2乗で算出し、以下のように分類します。
BMI 18.5~24.9は「標準体重」
BMI 25.0~29.9は「やや肥満」
BMI 30.0~39.9は「肥満」
BMI 40以上は「重度肥満」