病気について知る病気辞典

病院における放射線の利用と被ばくについて

2015年10月31日

福島第一原発事故により、放射線による健康への影響に関心が集まっています。放射線は自然界で普通に存在し、私たちは太陽や大地、空気、食べ物などから常に放射線を浴びており、日本人一人あたり年間2.1ミリシーベルトの量の放射線に被ばくしていると言われています。放射線は高度の高いところほど多くなり、飛行機で東京とニューヨークを往復すると0.2ミリシーベルト被ばくし、国際宇宙ステーションに滞在すると一日あたり0.5~1ミリシーベルト被ばくするとされています。これら少量の放射線では健康にほとんど問題がないものの、放射線の影響は足し算されていき、合計の値が大きくなるほど、癌や白血病などの病気になる危険は増していくと考えられています。

自然界以外でも、放射線は暮らしの中の様々な分野で利用されています。中でも皆さんに最も身近なものは、病院での放射線の利用だと思います。現在の医学において放射線の利用は不可欠です。放射線を用いた検査で毎日多くの病気が発見され、治療方針が決定されています。特に近年のCT装置の発達は目覚ましく、最新の装置では数秒間で全身を検査でき、かつ心臓の血管の様な細かな血管まで詳細に診断することが可能になりました。救急などの一刻を争う患者さんには短時間で全身の状態が把握できるCT装置の存在は欠かせません。幸せなことに我が国のCT装置台数は世界一で、誰でも急病や外傷で必要な時には病院でCT検査が受けられます。

また病院で放射線は診断、検査だけでなく、治療にも利用されています。放射線治療は副作用が少ない、患者さんに優しい治療として、手術や抗がん剤の治療と並ぶ、癌の治療法の一つとして確立しています。

このように病院で使われる放射線の被ばくを、医療被ばくと言います。これは世界的に年々増加しており、その最大の原因はCT装置の普及と言われています。世界最大のCT装置保有国である我が国の医療被ばくは2014年の発表によると、一人あたり平均して年間3.9ミリシーベルトと自然界からの被ばくより多いと推定されています。

放射線を用いた診療は健康影響の懸念はあるものの、患者さんにとって、それをはるかに上回る健康上のメリットがあると医師が判断して行われており、医療被ばくには上限は決められていません。しかし可能な限り被ばくを抑える努力をするのは当然のことです。そこで近年の医療被ばく増加の主な原因であるCT検査での被ばくを軽減させるべく、様々な取り組みが行われています。2010年、放射線医学関連学協会の協力のもとに、医療被ばく研究情報ネットワーク(Japan Network for Research and Information on Medical Exposures: J-RIME)が発足。全国の大きな病院を調査し、CT検査などにおける推奨すべき被ばく量(診断参考レベル2015)を今春に日本で初めて設定しました。またCT装置のメーカーでも研究開発が進められており、以前の装置よりはるかに少ない被ばくで検査が行えるようになってきています。

皆さんに医療被ばくを正しく理解していただき、我が国が誇る医療環境の恩恵を安心して受けられるよう、我々医療従事者は日々努力していきたいと考えています。