病気について知る病気の解説

血便を見たら…

2022年6月3日

 「便に血がついています」、「肛門から鮮血が出ました」、このように訴えて外来を訪れる患者さんはたくさんおられます。大腸からの顕出血(肉眼で分かる出血)である血便は、消化器診療の現場で数多くみられる症状の一つです。血便で気づかれる最も多い疾患は痔疾患ですが、患者さんが一番心配して来院する理由は「もしかしたら大腸がんでは…?」ということではないでしょうか。
 ちなみに消化管出血のなかで大腸出血例の占める頻度は20~27%と報告されており、大腸出血の原因疾患として、大腸がん13.8~18.5%、大腸ポリープ14.8~17.4%、潰瘍性大腸炎8.9~11.8%、薬剤性大腸炎3.3~8.9%、虚血性大腸炎4.0~6.4%、大腸憩室出血1.8~4.3%などとなっています。痔疾からの出血は4.0~25.4%と幅が大きく、報告者によりまちまちです。
 血便の色は出血部位、出血量、腸内停滞時間と密接な関係があります。出血部位との関係では、肛門に近いほど鮮紅色となり、少量の出血でも認識できますが、奥の方(右側大腸)では一般に便は液状であり、少量の出血だと便は黒褐色となって血便と認識されなくなる場合も増えてきます。血便のほかにどのような症状があるかを確認することも大切です。腹痛や下痢があれば抗生物質起因性大腸炎や虚血性大腸炎などの急性炎症かもしれませんし、さらに発熱や体重減少などを認めれば、潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性炎症性腸疾患の可能性も考えなければなりません。
 併発症状のほとんどない大量の血便としては大腸憩室出血や動静脈奇形、少量出血では痔疾、大腸ポリープとその摘除後出血などが考えられます。もちろん、非典型例もありますので、血便が認められた際には、なるべく早く専門医を受診することが大切です。
 食生活の欧米化すなわち動物性脂肪、動物性タンパクの過剰摂取により大腸がんが増加の一途をたどっています。大腸がんを見逃さないようにするためにも、専門医による精密検査を受けることが大切となります。
 大腸がんに関して言えば、血便が顕著となるまで放置すると手遅れになることもあるので、40歳を過ぎたら1年に1度は大腸がん検診(便潜血反応)を受けておくことも付け加えておきたいと思います。
 精密検査は主に大腸内視鏡検査が行われ、診断のみならず、同時に内視鏡的治療も可能となります。すなわち内視鏡を用いてポリープ、早期がん等の粘膜切除、あるいはクリップ等を用いた止血術も同時に行うこともあります。また痔からの出血であれば、程度により坐薬等の保存的治療、または手術的治療が考慮されることとなります。
 血便を認めた際には、恥ずかしがらないで早く胃腸・肛門の専門医を受診することをお勧めいたします。