がんサバイバーシップとは
近年注目されているがんサバイバーシップとは、聞き慣れない言葉ではあるのですが、がんの診断・治療を受けた人々(がんサバイバーといいます)が、その後の生活を送っていくことで抱える、身体的・心理的・社会的な様々な課題を、社会全体と協力して克服していくという概念であります。すなわち、がん治療そのものではなく、がん患者さんの治療後の社会生活面の充実に重きをおく概念といえます。
欧米では、自らががん患者である医師が行った学会雑誌への報告(Mullan F. New England Journal of Medicine. 313: 270, 1985)が、がん治療の歴史上初めてのがんサバイバーシップについての報告とされています。それまでのがん患者に対する医療は、診断から治療終了までに集中しすぎていた(生存率の向上至上主義といわれます)のではないかという反省にたち、これでは、治療を行っていても、まるで「先進技術を使って溺れる人を水から引き揚げた後、咳き込んで水を吐くその人をそのまま放置しているようなものだ」というのです。その報告以降、医療界にも反省の機運が巻き起こり、2000年代初頭から、アメリカやオーストラリアでは、学会中心でがんサバイバーシップに対するケアの取り組みを開始させています。
本邦でも、厚生労働省の第3期がん対策推進基本計画(2018年3月)では、医療における重点課題として、がんサバイバーシップの充実に重きをおいた、例えば、就労支援、AYA(思春期・若年成人のがん患者)対策、妊孕性温存(がん治療後の妊娠・出産を目指す方法)等が初めて挙げられており、がんサバイバーシップのガイドライン作成や各種の研究といった、がんサバイバーシップに対する取り組みが始められています。
ご想像いただけると思いますが、がんサバイバーシップの課題としては、身体的問題として、二次性発がん、術後後遺症、妊孕性温存、心・骨への影響、ケモブレイン(がん薬物療法による一時的な脳機能低下)、性機能障害、アピアランスケア(治療による外見変化に対する支援)等、社会的問題として経済的負担、就労支援問題、チャイルドケア(がん患者さんのお子さんも含めた家族全体のサポート)、精神的問題として適応障害、うつ病、不安等の問題が考えられ、大変多岐にわたるのです。
しかし、まだ本邦では、がんサバイバーシップの概念定着や実践は医療者間でも十分とはいえないのが現状です。これらの課題に対して、愛媛県においても、医療者それぞれの持つ専門性を活かしながら、がん患者さんやそのご家族へのサポートケアができる体制、すなわちがん患者さんにやさしい社会を、少しずつでもいいので作っていかなくてはいけないと考えております。