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手術で治る歩行障害、認知症 (特発性正常圧水頭症)(とくはつせいせいじょうあつすいとうしょう)

2024年5月1日

済生会松山病院 脳神経外科 楠勝介 先生

人間の脳は頭蓋骨の中で脳脊髄液という水に浮いています。この脳脊髄液は1日に約500ccが産生され、同じ量が吸収されています。脳脊髄液の産生と吸収のバランスが何らかの原因で乱れることによって、脳の中に脳脊髄液がたまって神経症状が出る病気が水頭症です。

 多くの水頭症は脳卒中、頭部外傷や脳の炎症などが原因で、水がたまることで脳の圧が高くなります。しかし60歳以降で特に原因がなく、脳の圧が正常にもかかわらず、脳に水がたまってくることがあります。このような水頭症を特発性正常圧水頭症といい、以下の特徴的な症状がでてきて、数カ月から年単位で進行していきます。

①歩行障害、歩幅が減少、足が上がらない(すり足)、足の間隔が広がる(がに股)

②認知症、注意力低下、思考速度の低下記憶力低下、ぼーっとする

③尿失禁、急に尿にいきたくなる、尿を我慢できず間に合わない 

  上記症状があっても年のせいと思い込み、病院受診をしない方が多く、認知症の5%程度には本疾患が隠れていると言われています。水頭症の症状を軽くする薬はありますが、根本治療としては手術しかありません。

 発症早期に上記のような症状が見つかり、CTやMRI検査で水頭症が疑われて、治療により症状の改善が期待される場合は髄液排除試験を行います。この試験は腰から背骨に注射針を刺して(腰椎穿刺)、脳にたまっている余分な脳脊髄液を除去するものです。この試験で一時的に症状の改善が得られる場合は次にあげる手術をすると、脳の中にたまっている余分な脳脊髄液を持続的に取り除くことができ、症状の改善(特に歩行障害)が期待できます。

  手術には脳室・腹腔シャント、脳室・心房シャント、腰部くも膜下腔・腹腔シャントがあります。いずれの手術も余分な水がたまっている場所に細い管を入れて、体内に埋め込んだ管を通して、お腹の中や血管の中に流すものです。病気の状態に応じていずれかが選択され、脳神経外科手術の中では比較的簡単な手術の一つです。

 最近になって手術をした後でも水の流れを調節できる装置が開発され、手術の確実性が上がってきています。手術は基本全身麻酔で行いますので、手術をするかどうかは患者さんの全身の状態との相談になります。

 症状でお困りの方がおられましたら一度専門医を受診してください。