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食欲抑制作用を持つGLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬

2025年12月1日

食欲抑制作用を持つGLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬

松山赤十字病院 近藤しおり 先生

  令和5年の国民健康・栄養調査によると、日本における肥満者の割合は男性で31.5%、女性で21.1%です。肥満とは、BMI(body mass index)=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)が25以上と定義されます。肥満があると、高血圧、コレステロールや中性脂肪が高くなる脂質異常症、2型糖尿病、脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群など内臓の病気から、膝や腰を痛めるなど整形外科的問題まで様々な病気が生じやすくなります。
 肥満の治療は、食事療法と運動療法、適切な睡眠確保など生活習慣を整えることが一番大切です。使うエネルギーより食べるエネルギーを減らせば痩せるはず!です。しかし、生活習慣がすんなり変えられて体重が減るのであれば誰も苦労する人はいないでしょう。
 2010年にGLP-1受容体作動薬という2型糖尿病の治療薬が登場し、グルカゴンという血糖上昇ホルモンを押さえ、食欲抑制効果があることが分かりました。なかなか血糖が下がらず、入院が必要になったり、インスリン注射をしても効果が一時的であった人が、GLP-1受容体作動薬で体重が減り、血糖値も著明に改善、そしてその状態が維持される例も多くあります。  
 今まで、食欲をほどよく抑制してくれるお薬はありませんでした。GLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬で食欲抑制効果から体重が減ることが明らかになり、肥満症の治療としても使用されるようになりました。勿論、食事療法と運動療法は車の両輪として引き続き取り組んでいくことが大切です。
 また、体重減目的で使う場合には前もって6か月間の食事療法と運動療法を行う必要があります。この薬のよくある副作用は、嘔気、腹満、下痢・便秘など消化器症状です。頻度は非常に少ないとされますが、急性膵炎や胆のう疾患など副作用には十分注意が必要です。一部、ダイエット目的でこれらの注射を使用している方も少なくないと言われています。医師の診察なしでこれらの注射を使用することは、副作用も心配ですが、本来肥満もないのにさらに痩せるために使用されると健康をかえって損なうかもしれません。薬はリスク(くすりはりすく:上から読んでも下から読んでも同じ)ともいわれます。人類が初めて手にした食欲抑制作用を持つGLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬ですが、適正に使用していくことがその方の健康を守り、ひいては社会に資することにつながっていくと思われます。