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ワクチンと全身麻酔の話

2022年9月23日

 昔は、ワクチンの予防接種といえば子どもの話で、大人が予防接種を受けるのは海外旅行の前くらいでした。最近は大人もインフルエンザや肺炎球菌などの予防接種を受けるようになり、コロナの流行とともにその機会が増えています。手術前の麻酔科の診察でも「手術前にコロナのワクチンを注射していいのか?」と聞かれることが多くなっています。ここではワクチン接種と全身麻酔のタイミングの図り方についてお話します。

 まず、ワクチン接種後にどのくらいの期間を空ければ全身麻酔を受けてよいでしょうか?
 麻酔科医はワクチン接種後に副反応が起きる間は全身麻酔を行わないようにしています。例えば「発熱」という症状が副反応によるものか麻酔や手術の影響で起きたものか区別できなくなることや、患者さんに副反応と手術で二重の負担がかからないようにするためです。
 また、ワクチン接種を受けてから十分な免疫を獲得するために必要な期間はなるべく全身麻酔をしないようにしています。全身麻酔や手術による炎症で免疫が抑制されてワクチンの効果が弱まる可能性があるからです。

 具体的には、弱い感染を起こして免疫を獲得する生ワクチン(BCG、みずぼうそう、麻疹、風疹、おたふくかぜなど)では、副反応が起きる期間が長いので、接種後3週間は全身麻酔を避け、十分な免疫獲得のために、接種後1カ月はなるべく全身麻酔をしないようにしています。

 一方、不活化ワクチン(インフルエンザウイルス、日本脳炎ウイルス、肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス(子宮頸がん)、肺炎球菌、インフルエンザ桿菌b型、ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオなど)やコロナウイルスのワクチンでは、副反応が起きる接種後2日間は全身麻酔を避け、免疫獲得に必要な接種後2週間は、なるべく全身麻酔をしないようにしています。
 ただし、これは一般的に推奨されている期間なので、緊急に手術が必要な場合は、ワクチン接種の当日であっても全身麻酔で手術を受けることができます。また、早期に手術が必要な場合はワクチンの副反応が起きる時期を過ぎて副反応の症状が治まれば全身麻酔を受けることができますが、ワクチンの効果が弱くなるかもしれないと考えておいてください。

 では、全身麻酔(手術)からどのくらいの期間を空ければワクチン接種を受けてよいでしょうか?
 全身麻酔や手術は免疫抑制を起こし、免疫機能の回復に1〜2週間が必要とされています。ワクチンの効果を十分に得るためには、全身麻酔から2週間以上経過し、体力と免疫機能が回復してからワクチン接種を受けるようにしてください。特に、ワクチン接種の種類や回数が多く、感染症に罹患しやすい子どもでは、ワクチン接種と手術の日程を決めるのが難しくなりがちです。
 この記事を参考にワクチン接種と手術のタイミングを図っていただければと思います。