病気について知る病気の解説

心が傷を受けるということ

2022年9月9日

 からだの傷なら
 なおせるけれど
 心のいたでは
 いやせはしない
 ~阿久 悠 作詞
 「時の過ぎゆくままに」
         より~
 阪神淡路大震災によって気づかされたのは、壊れた街の復興が進む一方、当時の過酷な体験の記憶とつらい感情を抱えたまま生きてゆかざるをえない人が大勢いることでした。PTSD(外傷後ストレス障害)として、命が助かったのだから前を向いて進みなさいと励ますだけでは解決しない心の傷跡のことが知られるようになりました。九死に一生を得るような衝撃的体験のみならず、虐待やいじめといった逃れることのできない繰り返される逆境経験もまた深刻な傷となり、いつまでも絶望感のなかに閉じ込められてしまいます。
 こころのケアが当たり前のこととして求められるようになりましたが、傷の深さは一様ではありません。心の傷は脳にその痕跡、トラウマとして残ります。迫りくる危険を探知し怖いと感じさせる働きと、その危険にどう反応するか判断し行動する働き、脳の二つのバランスが崩れてしまいます。トラウマへの対処として、まず安心できる場所と時間が確保されること、そしてこの不均衡を回復させることだといわれています。眼球運動による脱感作と再処理法、マインドフルネス、自律神経の再調整、認知行動療法などの効果が実証されていますが、いずれかひとつが最良の治療法というわけではなさそうです。もしあるとすれば、時の過ぎゆくままに身を任せるだけでなく、つらい記憶の克服に役立ちそうなことを、なんでも試そうとする意志かもしれません。

※松山市医師会追記:眼球運動による脱感作と再処理法 (目の動きと組み合わせた比較的新しい治療法)