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パニック障害の治し方

2023年4月21日

 動物と同様に人間も、命の危険な状況では不安や恐怖という警報を鳴らし、「戦うか、逃げるか」の反応が起き、危険から身を守ります。さらにそれを学習する事で次の危険を避け、命を守る仕組みがあります。

 しかしある日突然、安全な状況にもかかわらず、脳がこの警報を誤って鳴らしてしまう事があります。不安や恐怖を生み出す脳の扁桃体が誤作動を起こし異常に活性化し、交感神経が強く興奮します。激しい動悸、息苦しさ、吐き気、めまい、発汗などの症状が現れ、気が遠くなったり、死んでしまうのではないかと思うような強烈な恐怖に襲われ、ここから逃げ出したいという強い衝動が起きます。これがパニック発作です。
 扁桃体に隣接する海馬が、この場所、状況、不安や恐怖、身体感覚などを丸ごとパックして恐怖記憶として脳に保存します。パニック発作の強い恐怖と本来安全なその場所や状況が紐付けられ、「恐怖の条件付け」が脳の中で起こります。そして、その場所や逃げられないように感じる状況に、パニック発作を恐れて「予期不安」を感じ、それを避けるようになります。これを「広場恐怖症」と呼びます。
 例えば、電車や飛行機などの乗り物、車の運転、特に高速道路やトンネル、高架、右折レーンでの信号待ち、映画館、歯科や美容室、病院でのMRIなど、物理的、精神的に拘束されると感じる場面を回避するようになり、回避すると一時的に安心を得ます。これらの「恐怖の条件付け」と「回避→安心」の学習の繰り返しが、長期にわたりパニック発作の恐怖を維持し、行動範囲を狭くし、生活に支障をきたします。これがパニック障害です。

 パニック発作を起こしたら、まず症状のよく似た身体の病気、心臓や甲状腺の疾患、貧血や低血糖発作などではないか、内科等を受診しましょう。身体に問題がなければ、心療内科や精神科で診断、治療を受けます。

 治療は、薬物療法が基本です。この扁桃体の異常な活性化、過敏性を、抗うつ剤のSSRIが改善させる事がわかっています。依存性はなく、実際によく効くため、治療の第一選択薬として使われます。ただ、即効性はないため、発作時には、抗不安薬が頓用で用いられます。
 薬物療法で発作が頻回に起きなくなり、安定してきたら、「恐怖の条件付け」を消去し、回避行動を減らしていくために、暴露療法を中心とした認知行動療法を行います。不安の小さなものから段階的にチャレンジし、少しずつ不安に慣らしていき、その場所や状況が安全である事を脳に再学習していきます。
 治療のコツとして
①パニック発作を「致命的な事がおこっている」と考える「破局的思考」という認知の歪みを修正します。パニック発作は「ただの誤警報」であり、発作そのものは「人体に無害」で「時間が経てば、元通り」になり、ましてや「死ぬことは絶対にない」という事実を繰り返し、心に刻みましょう。

②暴露療法は、発作が起きない事を目的にせず、回避していた事が、少しずつできるようになることを目的にします。胸のざわざわ感や動悸が起きても、緊張すれば当然起きる自然な生理現象にすぎず「自律神経の反応=発作の前兆」ではありません。目標とした行動をやり遂げたら、成功体験としてしっかり受けとめます。

③パニック発作が起きた時は、症状をコントロールしようと必死にもがくのはやめて、冷静に、ただ観察し、「なるようにしかならない」ともがきを手放し、時間の経過に身をまかせましょう。「なにもしない、判断せず、ただ受けいれる」。これが真の不安への暴露となり、治癒へと進ませます。