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お腹の手術のキズあとがポッコリ… それって腹壁瘢痕ヘルニアかも?

2023年5月12日

腹壁瘢痕ヘルニアって何?
 腹壁(=お腹の壁)の瘢痕(=手術のキズあと)にできたヘルニア(=脱腸)のことです。医療が発達した現代でも、一定の割合で手術が必要になる人がいます。手術のキズあとはとてもきれいに治る人もいますが、よく見ると分かるものです。立った状態で見てみると、そのキズあとが、お椀型にポッコリと膨れる人がいます。大きさも、ピンポン球くらいからソフトボール大ほどまでと様々ですが、仰向けに寝ると膨らみはなくなります。仰向けに寝ている状態で少し頭を持ち上げ、腹筋に力を入れて慎重に触ってみると、膨らみのある部分は、周囲のお腹の壁に比べて、押さえたときに硬さがないことに気づくでしょう。これが、「腹壁瘢痕ヘルニア」と呼ばれるものです。

原因と治療は?
 お腹の手術の場合、皮膚、次に腹筋という筋肉の壁を切り開いて、お腹の中の手術をします。手術の終わりに、これらをそれぞれ縫い合わせるのですが、表面の皮膚はきちんとくっついているのに、その下で縫い合わせた筋肉の壁のくっつきが外れ、筋肉の壁に隙間ができて、穴ができることが知られています。この筋肉の壁に開いた穴が腹壁瘢痕ヘルニアの原因です。そのために、重力で引っ張られた腸が、その穴から飛び出してこようとして膨らむのです。縫い合わせた皮膚はとても丈夫なので、皮膚が破れたりする心配はほとんどありませんが、ポッコリと膨らんだその膨らみは、同じか、もしくは時間と共に次第に膨らんできます。自然に穴が塞がることはなく、薬での治療もできないために、治すためには穴を塞ぐ手術が行われます。

お腹の手術をするとみんな腹壁瘢痕ヘルニアになるの?
 お腹の手術をした人の2~11%に見られ、手術後、半年から3年の間に80~95%が発症するとされています。最新の2020年の統計で、腹壁瘢痕ヘルニアの手術は、日本全国で約8000件が行われています。お腹の手術後、2~11%の発症率を考えると、年間8000件という手術件数は、決して多い数とは言えません。腹壁瘢痕ヘルニアを持ちながらも、症状が強くない場合には、病院を受診しても、手術の難しさも相まって、気にしなくていいよとか、様子を見ましょうと言われて治療にいたらないことも多い病気です。

気をつけることは? 相談できる診療科は?
 日常生活において、腹痛やお腹が張るといった症状の他にも、見た目が気になる、膨らんだところでグルグルと腸の動くような音がする、スカートやズボンをはいたりするときに膨らみにあたるのが心配という声が聞かれます。しかし、膨らみが柔らかければ緊急性はありません。
 ところが、時にいつもと違って膨らみがとても硬くなることがあります。その場合には、はみ出た腸が穴にはまり込んでいる可能性があり、一刻も早く病院を受診する必要があります。ふだん強い症状はないにしても、自然に治ることはなく、手術で治療できる病気です。専門は外科になります。QOL(Quality of Life:生活の質)の向上のために、どうにかできないものかと思われる場合には、積極的に外科に相談に行かれることをお勧めします。