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アトピー性皮膚炎の新規治療

2023年6月2日

 近年アトピー性皮膚炎(以下AD)の治療薬が立て続けに発売されています。デュピクセントⓇ、ミチーガⓇなどの注射薬、オルミエントⓇ、リンヴォックⓇ、サイバインコⓇなどの内服薬がありますが、中等症以上のかゆみの強いADの症状を劇的に改善します。

 ADの7〜8割の方は軽症ですので、悪化因子の除去、スキンケアを含めて適切な既存の外用治療を行えば症状は改善します。十分に外用治療を行っても良くならない中等症以上のADでは先述の新しい治療薬の使用が望まれますが、これらの治療薬は単独使用では効果が不十分で、あくまで既存の外用薬との併用で絶大な効果を発揮します。またこれらの治療薬は非常に高価であること、小児の保険適応が認められていないこと、内服薬に関しては導入前の検査が必要であること、使用期間が明確でないことから、その有効性に比べて十分に普及、使用されているとは言えません。

 ADの治療のゴールは「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、それを維持することである。」と引き続きAD診療ガイドライン2021でも謳われています。

 皮膚科医はADの症状について皮疹の状態で重症度を判別しますが、患者さんにとってはかゆみが最もつらく、ストレスや睡眠不足につながり、生活の質を著しく低下させています。そのために皮膚科医の評価と患者さんの訴えに乖離が見られることがありますが、最近「POEM」「ADCT」といった質問表を用いた患者さんによるセルフチェックの結果がADの重症度と相関することが証明されていて、外来診療での使用が推奨されています。

 実際のAD診療において最も頭を悩ますのが、長期にわたってステロイド外用を続けていながら症状を十分にコントロールできていない患者さんです。その多くはステロイドの外用が不十分な(適切でない)ためですが、皮膚の萎縮などステロイドの副作用がすでに現れていることもあり、このようなケースでは新しい治療薬に頼らざるを得ません。

 ADの治療は、まずはしっかりとステロイドを中心とした外用治療を行って治療のゴールを目指し、POEM、ADCTを使用したり、TARC(※)を検査したりして、治療が十分であるかどうかを判断します。症状が改善すれば、保湿剤を使いながら必要最低限のステロイドの外用、もしくはプロトピックⓇ、コレクチムⓇ、モイゼルトⓇ軟膏などの非ステロイド剤の外用で治療のゴールから外れないようにします。

 一方、十分に治療しても症状が改善しない中等症以上の方には、次のアプローチとして悪化因子の検索、除去を励行します。それでも症状が良くならない場合には、かゆみが相当強い方、ステロイド外用剤の副作用が見られて十分に外用治療をできない方と併せて、冒頭の新しい治療薬の導入をかかりつけの皮膚科専門医にご相談ください。

※TARCはアレルギー反応に関わる物質の一つで、アトピー性皮膚炎の重症度を評価するのに用いられる血液検査値。定期的に測定することで現在の治療の効果を判定したり、治療の継続、変更、中止の判断材料に用いたりする。