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多汗症について

2023年9月15日

松山市民病院 皮膚科 野間陽子先生

 まだまだ暑くて汗をかく日が多いと思います。本来汗は体温調節の役割もあり、気温が高いときや、運動して体温が上がると汗をかいて水分を蒸発することで体温を下げる役割があります。体のためには必要なものですが、それ以外に精神的にも汗をかくことがあります。特に手のひら、足の裏、脇が多く、最近テレビCMでこんな症状で困っていませんかと見られた方も多いのではないでしょうか。

 「子どもの時から手汗が多くて学校や職場でテスト用紙や書類が濡れてふやけて困っています」、「手がしっとり濡れている状態で人と接触することに悩んでいます」、「夏になると薄着になるので脇に汗ジミができてしまって気になります」と相談されます。このような症状で困っている方が日本でも10%程度おられますが、実際病院に受診されている方はその中の10%以下であるというデータもあります。

 

 多汗症とは日常生活が困るほど汗を多くかいてしまうことです。体の一部からと全身の場合があり、子どもの時から、だいたい25歳までの発症であれば原発性ですが、大人になってから始まる場合は甲状腺など全身の病気や神経疾患、薬剤の影響などの場合が考えられます。治療ができるのは原発性の場合で、汗をかくことが我慢できず、日常生活が困る程度であれば治療を行います。ただ汗を完全に止めてしまうことは不可能です。

 初めに行う治療は副作用の少ない外用剤から開始します。今までは塩化アルミニウム溶液を患部に続けて塗り、汗を出す出口を抑えることで量を減らす治療をしていました。金属の溶液であるためかぶれる可能性はあり、薬としては発売されていないため一部の病院で院内製剤として作ったものを自費で購入してもらっていました。

 しかし今では原発性腋窩多汗症(脇汗)について保険で治療できる外用剤(エクロックゲルと、ラピフォートワイプ)の2種類が発売されており、令和5年6月から手掌多汗症(手汗)の外用剤(アポハイドローション)が新たに発売されました。これらは汗を出す指令であるアセチルコリンがエクリン汗腺の受容体に結合するのをブロックすることで汗を抑える効果があります。抗コリン作用があるため、目に入らないように気をつける、基礎疾患によっては注意する必要がありますが、発汗が我慢できず日常生活に支障がある状態であればご相談していただければと思います。

 

 ただ外用剤で完全に汗を止めることはできませんので、期待するほど効果が見られない場合はイオントフォレーシス、脇のみボツリヌス毒素の局所注射(効果は半年ほどで、保険適応ですが高額です)、漢方、内服薬、手の重症多汗症のみ胸の交感神経を外科的に遮断する手術(副作用として脇汗が増える)、脇のみレーザー治療(保険外)などの有効例もあります。ただこれらは治療できる医師、病院がかなり限られており、副作用もありますので、それぞれでご相談ください。