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RSウイルスワクチンについて

2025年1月1日

産科婦人科ばらのいずみクリニック 小泉幸司 先生

  RSウイルス感染症は、RSウイルスに感染することによっておきる呼吸器の感染症です。生まれたばかりの赤ちゃんから高齢者まで感染します。この感染症に対しては、対症療法が基本で有効な治療薬はありません。⽣後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ100%が初感染しますが、症状は軽い風邪から重い気管支炎や肺炎の症状まで様々です。
 健康な成⼈にとっては⾵邪程度で済むことがほとんどですが、これに対して、生まれてから6カ月以内の赤ちゃんや高齢者では重症化する場合があり、肺炎、無呼吸、急性脳症なども引き起こします。その後の気管⽀喘息との関係性も指摘されています。
 ⽇本では、年間12〜14万⼈の2歳未満の子どもがRSウイルス感染症と診断され、そのうち3万⼈が⼊院を要しています。基礎疾患のない正期産の子どもも多く、しかも近年は流⾏期が定まらず、RSウイルス感染症は注意を要する病気です。
 ところで生後数カ月の赤ちゃんの免疫機能は発達していないため、ワクチンを直接接種しても病原体に対する抗体が作られにくいとされています。このワクチンを妊婦に接種することによりRSウイルスに対する抗体が⺟体で作られ、その抗体が胎盤やへその緒を通じて赤ちゃんに移⾏することで、RSウイルスを原因とする重い気管支炎や肺炎を防ぐことができます。妊娠24週から36週の妊婦に1回0.5mlを筋⾁内接種するとなっています。ただ、赤ちゃんの発育の観点から出⽣までの期間の短い28週から36週で接種を行うことでさらに有効性が高くなる可能性があります。RSウイルスによる重い気管支炎や肺炎の予防効果は、生後90日で81.8%といわれ、生後6カ月までの有効性が確立されています。
 2024年1月に「妊婦への能動免疫による新⽣児及び乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防」の適応で製造販売承認され、5月に発売となったこのワクチン(販売名:アブリスボ)により、⽣まれてくる赤ちゃんに対するRSウイルス感染症の予防に役立つことが期待されています。なお、同年3月にアブリスボは「60歳以上の者におけるRSウイルスによる感染症の予防」の適応でも承認されています。
 このワクチンの取り扱いの有無を含め、接種を検討している方や詳しく話を聞きたい方はかかりつけ医にご相談ください。