難聴と認知症
難聴と認知症
おかだ耳鼻咽喉科 岡田昌浩 先生
超高齢化社会となった日本では、認知症が社会的な問題となっています。最近、「Lancet」という有名な医学雑誌に報告された論文によると、認知症は、難聴、教育不足、喫煙、うつ・社会的孤立、運動不足、大気汚染、高血圧、糖尿病、頭部外傷、飲酒、肥満などが要因となっており、これらの要因に介入することで、約40%の認知症を減らすことができると考えられています。その中でも、「難聴」は最も大きな認知症のリスクとなると言われています。
難聴の最も多い原因は、加齢に伴う「加齢性難聴」で、日本では1400万人以上の方が罹患していると推測されています。加齢性難聴では、“音は聞こえるけど聞き取りにくい”という症状から始まります。内耳にある音を感じる細胞(有毛細胞)と信号を脳へ伝える神経の間にあるシナプスの数が減ってくるからだと考えられています。その後、有毛細胞の数が減ってきて、高い音から徐々に聞こえなくなってきます。こうなると、聞き取るために労力を使ってしまうようになり、脳の中の記憶を司る「海馬」が徐々に小さくなってしまうと報告されています。これが、難聴になると認知症になりやすくなる理由と考えられています。
残念ながら現時点で、加齢性難聴による難聴を改善する薬はありませんので、予防や早期発見が重要になります。高血圧、糖尿病、喫煙などが難聴の危険因子と報告されていますので、生活習慣病に気を付けることで難聴を予防する可能性があります。
また、大きな音を聴きすぎることも難聴の原因となります。特に、近年、スマートフォンの普及により、ヘッドフォンやイヤホンを長時間使用する人も多いかと思います。大きな音での長時間の使用は控える方が良いでしょう。
加齢性難聴は徐々に聞こえが悪くなっていくため、自分では気付きにくいのも特徴です。早期発見のためには、以下のアンケートを参考にしてください。
□ 聞き返しが多い
□ 後ろから呼びかけられると気づかない
□ 聞き間違いが多い
□ 車が近づいたことに気付かない
□ 話し声が大きい
□ 複数人での会話がうまく聞き取れない
□ 電子レンジの「チン」やドアのチャイムが聞こえない
□ 相手の言ったことを推測で判断する
□ 騒音の多い場所で過ごすことが多かった
□ 家族にTVの音が大きいと言われる
このうち、3個以上当てはまる人は、耳鼻咽喉科の受診・検査をお勧めします。
加齢性難聴を“治す”治療はありませんが、海外の研究では、補聴器の使用により、認知症発症のリスクを軽減させることが報告されています。認知症発症のリスクを減らすため、難聴を早期に発見し、適切な時期に適正な補聴器を使用することが重要と考えられています。