アルツハイマー病の新たな 治療薬 抗アミロイドベータ 抗体薬について
アルツハイマー病の新たな 治療薬 抗アミロイドベータ 抗体薬について
貞本病院 久門良明 先生
皆さまの中に、最近、仕事や家事で段取りが悪くなったと感じたり、スマホを探し回ったりするようになり、認知症かもと心配される方はおられないでしょうか。高齢になるにつれて、認知症患者の割合が急激に高まるため、高齢化の進む日本では2025年に472万人の認知症患者は、2040年には584万人に増えると推計されています。 認知症の原因となる病気の70%近くを占めるアルツハイマー病では、神経毒性を引き起こすアミロイドベータ(Aβ)という異常蛋白が脳内に溜まり、次いで神経細胞内のタウ蛋白が異常リン酸化されて塊(かたま)り、神経細胞やその接合部を傷つけて神経細胞死に至ることが原因と考えられています。
これまでのアルツハイマー病治療薬は、神経伝達物質のアセチルコリンの量を増やしたり、神経細胞の過度の興奮を抑えて認知症状の進行を抑える薬でした。そんな中、新たな治療薬として2013年12月にレカネマブ(レケンビ®️)が、2024年11月にドナネマブ(ケサンラ®️)が発売されました。これらは抗Aβ抗体薬で、脳内に溜まったAβに結合して排除し、神経細胞傷害の進行を抑える画期的な薬です。症状が進行する前の投与が有効なので、早期の診断が大切です。認知機能検査のMMSEとCDRで判定された軽度認知障害(MCI)または軽度認知症患者のうち、脳脊髄液検査やPETでAβの脳内蓄積が認められた方が対象になります。
両薬剤の治療は、それぞれ決められた投与量を2週または4週ごとに30分または1時間かけて点滴静注し、18カ月が治療期間の一区切りになります。なお、ドナネマブでは投与開始後12カ月にAβ除去が確認された場合は、その時点で投与を完了します。両薬剤の治療効果は同程度で、18カ月の治療期間では、治療しない場合に比べて症状の悪化を30%前後抑制して、進行を半年遅
らすことができます。ただし、本剤はタウ蛋白の異常リン酸化には直接作用しませんので、疾患を治癒させるものではありません。
副作用は両薬剤で少し異なりますが、薬剤注入に伴って頭痛・発熱・嘔吐・紅斑などの症状が10〜26%に現れることがあります。またMRI画像上の異常として、脳の腫れや血液の漏れが各々10〜30%、脳出血が0.4%に認められます。それらの多くは無症状ですが、頭痛・めまい・悪心・疲労・痙攣などのみられることがあり、投与前と投与期間中は定期的にMRIを実施します。
薬は高額ですが、保険診療であり、高額療養費制度を利用できる場合もありますので、お問い合わせください。
アルツハイマー病以外の認知症をきたす病気には手術や薬で治せるものも含まれるので、気になる方は早めに最寄りの医療機関にご相談ください。