臓器補助と人工臓器 ~集中治療領域を中心に
愛媛県立中央病院・集中治療センター 矢野雅起 先生
私が働いている集中治療室ICU~Intensive Care Unitでは、病院内で最も重症の患者さんが数多く治療されています。病気の原因は様々ですが、状態にあわせていろいろな機械が治療に使われています。今回はその機械についてお話ししようと思います。
まずは心臓の病気です。心臓が止まれば人間は生きていけませんから、心臓の補助をする機械はいろいろあります。中でも心臓が止まってしまった患者さんに使うのが経皮的心肺補助装置PCPS~Percutaneous Cardio Pulmonary Supportです。この機械は心臓の手術をする時に使用される人工心肺と呼ばれる装置とよく似ていて、人工心肺をもとに開発されました。また、最近では心臓が弱った人に使用するIMPELLA(インペラ)と呼ばれる血液循環補助装置や、そのものずばりの人工心臓LVAD~Left Ventricular Assist Deviceなども使用されています。
続いては呼吸の病気です。呼吸とは空気の入れ替えにより酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する行為です。空気の吸い込み量が足りない時などは人工呼吸器が出動しますが、酸素の取り込みと二酸化炭素の排出が大きく障害されている場合は、コロナ肺炎で知られるようになった体外式膜型人工肺ECMO~Extra Corporeal Membrane Oxygenationの出番です。ECMOは患者さんの大きな静脈から、心臓に帰る前の血液を一度体外に取り出し、機械的人工肺で酸素化して送り返します。酸素化された血液は心臓に帰り全身に送られます。ECMOも心臓手術に使う人工心肺から発達した装置です。
また、腎臓の病気もあります。腎臓が働かなくなれば、血液透析による治療を必要とするのはご存じと思いますが、重症の患者さんでは、よく知られている透析は全身の負担になることが多く、持続血液透析ろ過装置CHDF~Continuous Hemo Dia Filtrationと呼ばれる特殊な透析装置を使用して24時間連続でゆっくり透析をする場合が多くなります。
次に肝臓の病気ですが、肝臓には体内の毒性物質の解毒・排泄、必要なたんぱく質の合成、栄養の代謝など多数の役割があり、一つの装置で肝臓の働きをすべて代用することはまだできません。しかしながら、血漿交換PE~Plasma Exchangeという血液中の血漿成分(白血球や赤血球、血小板以外の部分)を、献血から作られた健康な人の血漿と交換することで体内の不要な物質を取り除き、必要な成分を補充する方法をつかって、一時的に肝臓の機能の一部を代行することができます。
このようにいろいろな機械をつかって重症患者さんの治療がなされていますが、これらの治療は一時的なものが大部分で、最終的には臓器移植が必要なものもあります。
最後に脳のことですが、脳機能だけは補助や代用手段がありません。やはり人間が最終的に人間である理由は脳機能にあるといえるのかもしれません。
今回は臓器補助と人工臓器について概略をお話ししました。機会がありましたなら、次回はもう少し詳しくお話しできればと思います。ありがとうございました。

