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麻酔科医の新型コロナウイルス感染対策 ~安心して手術を受けていただくために~

2021年4月9日

 この1年間、「今、手術や麻酔を受けて新型コロナウイルスの感染は大丈夫でしょうか?」という質問を何度も受けました。手術経験のない患者さんやご家族の方にとって、手術室はなじみのない場所であり、ご心配は無理もありません。そこで今回は、少しでも安心して手術を受けていただくために、麻酔科医が実践している感染予防対策をご紹介します。
 新型コロナウイルスには3つの感染経路があります。
 1.くしゃみ、咳や会話で出される[しぶき=飛沫]をたくさん吸いこむことによる飛沫感染
 2.ウイルスのついた物に触れた手で口・鼻・目をさわる接触感染
 3.飛沫が乾燥して小さく軽くなったエアロゾルが浮かぶ空間での空気感染
です。
 このうち、常に換気されている手術室での空気感染は、まず起こらないと考えてよく、麻酔科医の感染対策は、飛沫を「出さない」「吸わない」「触らない」の3つといえます。飛沫を出さない・吸わないためのマスク着用がいかに大切か、おわかりいただけると思います。
 現在、手術室では患者さんとともにスタッフ全員が抗ウイルス機能の高いマスクを着用していますが、ただ1つの例外が全身麻酔を受ける患者さんです。マスクを外して人工呼吸のためのチューブを口や鼻から肺まで入れる気管挿管から手術終了時の抜管まで、飛沫を防ぐ方法、薬や器具の選択を含めて、麻酔科医の大きな役割です。
 当院では安全性をさらに高めるため、全身麻酔に使用するフェイスマスク、チューブなど患者さんと接触するすべての製品をディスポーザブル(お1人のみに使用する)とし、麻酔回路にはウイルスを99%以上取りのぞくことができるフィルターを2個組み込んでいます。
 次に、触らない努力、接触感染予防のためには、手洗い消毒で手指衛生をこころがけ、マスクのほかにも帽子、手袋、ゴーグルやフェイスシールドを身につけています。また、麻酔器の表面などプラスチックや金属面のアルコール消毒も定期的におこなっています。
 昨年の春、初めての緊急事態宣言が出されてから2カ月の間に、新型コロナウイルス陽性、疑い症例を合わせて、全国で106例の手術が報告されましたが、それらの手術を原因とする感染拡大はありませんでした。すべての症例で予防対策をとれば、手術・麻酔時の感染リスクは限りなく小さくできると考えています。
 ワクチンの接種も始まりましたが、終息まで油断はできません。最後に、手術が決まった患者さんには、マスクを常につけていただくこと、入院2週間前からは、感染地域への滞在や多人数での会食を控えていただくことをお願いして、今後とも新型コロナウイルス対策を継続したいと思います。