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冬から春に向かっての体の変化  -心不全のパンデミック・水分と血管攣縮-

2021年4月23日

 胸部外科を振り出しに、その後、冠動脈のカテーテル治療・ペースメーカー治療と長期にわたって心臓に関係する治療を行ってきました。平成1年に松山に来てからは、心臓内科医としても多くの患者さんを外来で診てきました。
気温の下がる冬には血圧の上昇に伴う脳出血、脳梗塞、心血管系では心筋梗塞、動脈瘤の破裂・解離が多く、夏にも脱水による血栓形成が原因で脳梗塞、心筋梗塞が多くなります。冬から春にかけては気温が上昇すると血管が拡張するため、血圧が下がりやすくなり、立ちくらみやめまいが起こることがあります。また、冬の寒さが長い間心臓に負担をかけるためか、さらに気温や気圧の変化による自律神経の乱れも原因なのか、春先に脈拍が遅くなる人がいて、体の倦怠感やふらつきの原因となっています。木の芽時と言って精神的に不安定になる時期ですが、体も季節の変化について行くのが大変なのだと思います。若い時は体力があるので自然にコントロールしていますが、年をとるに連れて難しくなるようです。90歳を過ぎて自分で歩いて外来受診される方たちは、よく自分の体を知っていて、季節に合わせて生活の仕方を変えているようです。
 最近は高齢者が多くなり、厚生労働省は心不全のパンデミックと名付けて心不全患者の治療に力を注ぎ始めています。救急外来をしていると、ほとんど未治療の心不全の患者さんがよく受診されます。「どうしてこんなに悪くなるまで放置したのか」と本人と家族に尋ねると、双方とも年を取っているから仕方がないと思い、老化が理由では治療対象とはならないと考えていたようです。
 治療を行えば呼吸苦、息切れ、全身の浮腫が減少し、生活しやすくなります。心不全では息切れ、下腿の浮腫(急激な体重の増加)が気が付きやすい症状です。症状が出たら“年のため”とは判断せずに治療を受ければ、フレイル(虚弱状態)・サルコペニア(筋力低下)を防げます。死ぬ直前まで元気に生きてコロリと死にたいと思っているならば、心不全の治療を受けることをお勧めします。
 一般的に体内の水分を一定の量に保つ事は大切です。夏の暑さで多量に発汗し脱水になると頭痛、ふらつき、体の痛みなどが出てきます。汗のもとの体内の水分が不足すると、汗の気化による体温の冷却ができなくなり、体温が上昇し、熱中症となり、酷い時には命を落とす事もあります。血液の水分が不足した状態で末梢血管が拡張すると一気に血圧が下がりショック状態となります。熱が出ていなくても血液の水分不足があると、血管が縮みやくすなり、冠動脈の攣縮による胸痛、脳血管の攣縮による眩暈などが起きやすくなります。
 血液の水分を減少させる原因としては、腸炎があります。口から摂取した水分は大腸より再吸収されますが、腸炎になると再吸収が阻害されて水分を取っているのに脱水状態となります。
 血管が縮みやすくなるもう一つの要因は酸素不足です。これは正しく呼吸することにより肺胞から血液中に酸素が移行し、体の隅々の細胞に十分に酸素を与える事ができるのです。便秘は腸炎を起こしやすくします。昔から言われるように快食・快眠・快便は、元気に生きていく上で大切な事と思います。