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コロナの時代のがん治療

2021年6月25日

 新型コロナウイルスによる感染症「COVID19」が日本に出現してから1年半が経過しました。表面に棘をもった写真を見るたびに、雑誌を丸めて叩いてやりたくなります。人々は緊急事態宣言下でも自由な生活を夢見て元通りの行動をとり始めます。そして感染が再拡大するたびに医療は緊迫し、経済が困窮し、さらにストレスがたまって行きます。そのような悪循環の結果、感染者はまた増えていきます。

 しかしこんな時にもがんの治療は無くなりません。しかも通常の場合にも増して、患者さんや医療者には大きな負担がかかります。当院では手術予定の患者さんには全員に抗原定量検査を、ICU(集中治療室)入室患者さんにはPCR検査を行っています。また潜伏期間を考慮して手術の5日前入院をお願いしています。さらに外部からの感染を防ぐために、ご家族との面会も原則、手術当日15分程度に制限させていただいています。

 一方、医療者側の負担もまた大きくなります。全身麻酔での手術は通常、呼吸を確保するために喉に管を挿入して人工呼吸を行います。その時に新型コロナウイルスを含んだ飛沫が口から拡散すると、その部屋のスタッフ全員に濃厚接触の可能性が生じます。またICUに入室する際にも他の患者さんの入室を止め、動線を非感染者と完全に分離しなくてはなりません。病棟には陰圧室を設置し、スタッフは個人防護服を着用し、専用エレベータを指定し、入院制限を行うなど、施設運用面でも大きな変更を強いられます。
 さらにCOVID19重症者には、ICUで人工呼吸やECMO(体外式膜型人工肺)を使用するため、多くのスタッフが重点的に配置され、通常診療が滞ってしまいます。感染症指定病院では、すでにそういう状況にあります。幸いにも当院ではまだ入院中のCOVID19の発症はありませんが、がんとCOVID19が同時に発症すると、治療は当然困難を極めます。複雑な手術や抗がん剤治療では一時的に免疫機能が低下します。そこへCOVID19による肺炎が合併すると、がん治療の継続はほぼ不可能となってしまいます。
 もともと人工呼吸やECMOによる呼吸管理は、他の方法ではどうしても回復の見込みがない場合に装着するもので、開始時点ですでにその患者さんは重症と言えます。ECMOから離脱できる患者さんは全年齢を含めると50%程度です。COVID19は、そういう患者さんを短期間の間に急増させてしまい、自宅療養中に亡くなる事例も増加しています。

 このようにCOVID19はがん治療のためにも大きな弊害となっており、現在のところ予防しか対処法はありません。第一には現在進行中のワクチン接種ですが、当院で治療されたことのある方には当院でのワクチン接種をお奨めしています。第二はやはり3密を避けることです。コロナの側には人間を困らせてやろうという意思はありません。人間の側が3密を提供しなければウイルスは必ず消退するのです。
 医療負荷が高い状況が続き、今後も医療崩壊の危機に直面することが考えられます。愛媛県民一人ひとりが、まず“皆のための一人”と意識して、この困難を乗り越えて行きましょう。