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小児科と新型コロナウイルス

2021年7月2日

 この時期のトピックといえば夏かぜですが、2020年は全く流行しませんでした。夏かぜとは、読んで字のごとく夏に流行るかぜの総称です。冬に流行するインフルエンザや嘔吐下痢症も皆無といっていいほど少なかった。こうした感染症はたいていが何らかのウイルス感染が原因です。
 なぜそうなったか? それは新型コロナウイルスが世界的に拡がって日本でも有名人の感染や死亡が報道され、多くの国民がコロナを恐れて不要不急の外出を控え、マスクや手洗いなどを励行した自粛生活の結果だと考えられます。欧米に比して驚異的に患者発生率が低い原因を「ファクターX」といわれましたが、それは自粛生活を守った日本人の気真面目さや、毎日入浴して清潔であり、家庭内では靴を脱ぐといった生活様式にあると思われます。コロナにかからないように生活を気を付けていたら、ふつうの風邪にもかかりにくくなったというわけです。
 最初の緊急事態宣言が出たときには「病院に行ったらコロナがうつる」とほとんどすべての診療科で受診抑制がかかったものの、7月頃には元に戻った科が多かったですが、小児科と耳鼻科だけは、受診数の回復がないまま1年経過しました。患者さんが来院しなければ病院は成り立ちません。愛媛県内では私の知る限り、3軒の小児科クリニックが閉院しました。理由の詳細は存じませんが、いずれも院長先生がご高齢でいつ引退されてもおかしくはなかったとはいえ、コロナ禍が背中を押したのは否めません。
 不幸中の幸いで、新型コロナウイルスは小児は罹患も重症化もしにくいといわれていましたが、新たな変異株でそれもどうなるかわからない状況です。ワクチンの接種年齢が12歳まで下げられましたが、ワクチンが受けられない保育園や小学校でクラスターが出始めたらもう終わりです。兄弟や同級生の間であっという間に感染が拡がります。そうした中には成人と同様に重度の肺炎になって人工呼吸器管理が必要な子も出てくるでしょう。そもそも小児科の入院ができる病院自体が非常に少ないうえ、ICU管理出来る病床は本当に限られています。東京や大阪では入院できずに自宅療養で亡くなった方が少なからずいましたが、小児で同程度の流行があったらそれ以上に悲惨な状況になるところでした。
 だから大人がなるべくワクチンを接種して子どもにコロナをうつさないようにすることが大事です。自らの命だけでなく、大切な子どもたちを守るためにも。いち早く接種率を上げた欧米では、マスク着用の義務が解除されたりして、コロナ以前の生活を取り戻しつつあります。
 果たして今年、夏かぜやインフルエンザは流行るのでしょうか? 神のみぞ知る。小児科外来に子どもたちの賑やかな声が戻るにはもう少し時間がかかりそうです。