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忘れていませんか?コロナウイルス以外の感染症~感染性胃腸炎の話~

2022年1月21日

 新型コロナウイルス感染者が初めて中国で確認されてから2年が経ちました。世界中がこのウイルスに翻弄され、感染症といえばコロナとなり、その他の感染症については置き去りにされてきた感があります。
 しかし、私たちを苦しめる病原体は新型コロナウイルスだけではありません。確かにコロナ対策としての人流抑制、マスク着用、アルコール消毒などによって、コロナ以外の感染症も減少しましたが、その他の感染症が絶滅したわけではありません。現に今年の夏には子どもにRSウイルスが大流行し、県下の小児科病棟は満床に近い状態になり、入院も難しい状態になりました。RSウイルスは乳幼児に急性ウイルス性肺炎や細気管支炎、脳炎を起こして、死に至らしめることもある病気です。小児科領域では新型コロナウイルスではなくRSウイルスによって医療崩壊に近い状態に陥ったといえます。
 また、秋には手足口病が流行しました。さらに数年ぶりに全国的に水痘患者が増えていますし、感染性胃腸炎も流行の兆しがみられます。
 実は、この感染性胃腸炎の原因として有名なノロウイルスやロタウイルスは、アルコール消毒が効きにくいウイルスです。ウイルスは外側に脂質膜(エンベロープ)を持つエンベロープウイルスと、持たないノンエンベロープウイルスに大別されます。
 コロナウイルスやインフルエンザウイルス、ヘルペスウイルスなどはエンベロープウイルス、ノロウイルスやロタウイルス、アデノウイルスなどはノンエンベロープウイルスです。アルコールはこのエンベロープを破壊するのでエンベロープウイルスにアルコール消毒は有効ですが、ノンエンベロープウイルスはエンベロープを持っていないので、アルコール消毒が効きにくいとされています。
 今やどこに行ってもアルコール消毒液が置いてあり、皆さんはシュッシュッとアルコール消毒を励行されていると思います。でもそれだけではこの胃腸炎を起こすウイルスを防ぐことは困難です。ノロウイルスやロタウイルスには次亜塩素酸ナトリウムが有効ですが、アルカリ性で皮膚や粘膜を傷害するため、アルコールのように直接皮膚にシュッシュッと噴霧するわけにはいきません。
 ではどうすればいいのでしょうか? それは手洗いをしっかりすることです。手洗いによって手指に付着したウイルスを洗い流すのです。手軽なアルコール消毒で安心して手洗いがおろそかになっていませんか? もう一度基本に立ち返って丁寧な手洗いを心がけましょう。もちろん、吐物や便などが付着した衣類や床・家具などには、次亜塩素酸ナトリウムを使った付け置き洗いや清拭のほか、可能な物は煮沸消毒を行ってしっかり除菌してください。じゅうたんなど次亜塩素酸ナトリウムも煮沸消毒も使いにくいものにはアイロンによる加熱が有効です。
 感染症は新型コロナウイルスだけではありません。それぞれの病原体にあった対策を行って感染症を予防しましょう。