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胃腸のがんの手術の話

2022年1月28日

 2018年の統計によると、日本人が“がん”を患う確率は、男性65%、女性50%でした。日本人の2人に1人は、がんになっていることになります。このがんの内訳は、1位大腸がん、2位胃がん、3位肺がん、4位乳がん、5位前立腺がんで、胃腸のがんは、1位・2位を占めるとても身近な病気です。そこで今回は胃腸のがんの治療のうち、手術についてお話します。
 手術の話に入る前に、胃腸のがんについて簡単にご説明します。これを知ることは、手術を理解するうえで助けとなります。
 がんは胃腸の粘膜上皮細胞が“がん細胞”に変質することから始まります。この変質は、食べ物やタバコなどの外からの影響があります。大腸がんでは食生活の欧米化、胃がんではピロリ菌感染が知られています。
 がん化した細胞は、無秩序にねずみ算式に増殖し、最初は目に見えない小さいがん細胞の塊が、目で確認できる程の大きさになり、さらに大きくなると、胃腸の内腔をふさいだり出血したりします。また、がん細胞は、胃腸の中の小さな血管やリンパ管という管の中に潜り込み、胃腸のリンパ器官(体を外敵から守ってくれる器官で、胃腸全長にある)や肝臓・肺臓などの遠隔臓器に転移します。これら“がんの大きさ”、“胃腸のリンパ器官への転移の有無”、“遠隔臓器への転移の有無”で、胃腸のがんの進行度を判断します。 胃腸のがんの進行度がわかると、その治療方針が決められます。治療法には、胃カメラ・大腸カメラを用いた治療、手術、抗がん剤治療、免疫療法などがあります。このうち、手術が治療の主となるのは、肝臓・肺臓などの遠隔臓器へ転移が無い場合になります。
 手術の目的はがんの患部を切り除くことですが、遺残なく切り取ることが大切で、目に見えているより広い範囲にがん細胞があることを考慮し、胃腸を広く切り取ります。加えて胃腸のリンパ器官へもがん細胞が転移している可能性を考え、これらリンパ器官も同時に切り取ります。
 このようにがんを遺残無く切り取ることを根治手術と言います。近年は技術の進歩に伴い、この根治手術を、お腹を大きく開く開腹手術では無く、小さい傷で体にやさしい腹腔鏡下手術、あるいはロボット支援下内視鏡手術で行うことができるようになりました。
 手術でがんの患部を切り取ることができない場合でも、がんによる症状を和らげる目的で手術がなされる場合があります。例えば、がんで胃腸の内腔が塞がれていたり、出血している場合で、食べ物の迂回路を作るバイパス手術や人工肛門造設などの手術が行われます。最近の抗がん剤治療の進歩は目覚ましく、治療前は手術でがんは切り取れないと思われたものが、抗がん剤治療でがんが小さくなり手術でがんを切り取れたという事例も出てきました。
 以上、胃腸のがんの手術についてお話しました。ありふれた病気となった胃腸のがんの治療、特に手術について、皆様のご理解の一助となれば幸いです。